ひとつのバラ苗ができるまで〜河本バラ園の紹介〜

バラ園と言うと華やかな印象を持つ人も多いようですが、バラ苗の生産は、花が咲いている期間はほとんどなく、とても地味で地道な作業です。台木のタネまきから始まり、製品として出荷されるまで、1つのバラ苗ができるまでには、数々のプロセスを踏み、2年以上の月日を要します。

耐病性に優れ高品質なデルバールのバラ苗が、どのように生まれるのか?
日本のブランド・オーナーとして、国内で販売されるデルバール苗の生産を一手に請け負っている「河本バラ園」でのバラ苗づくりのプロセスをご紹介します。

河本バラ園について

河本バラ園でのバラ苗の生産は1960年に遡ります。農家が米作りだけでも十分に生計を立てられた時代、もちろん「ガーデンローズ」という言葉さえない時代に、先代社長で私の父・河本弘元と、母・河本純子が強い情熱をもってスタートしました。
河本バラ園が位置する岐阜県大野町は、古くから富有柿の産地として知られ、現在でも数多くの柿農園が広がっています。河本バラ園のルーツもまた戦後に始めた柿などの果樹苗の生産でしたが、果樹苗の生産からバラ苗の生産に移行したのには、いくつかの理由がありました。ひとつめに、それまで培ってきた柿苗生産の技術が、バラ苗にも応用できた点です。当時、柿の苗は台木に接ぎ木し、2年生苗として出荷していましたが、この接ぎ木の技術は、同じく台木に接ぎ木して作られるバラ苗の生産にもおおいに生かされました。また、大野町の風土がバラ苗の生産・生育に適していることも起因します。東部を流れる根尾川から得られる豊富な「水」、夏は暑く冬は寒いという寒暖差がはっきりした「気候」、根尾川と揖斐川の粘土砂からできた砂混じりの「土壌」。バラ苗の生産に最適な水・気候・土壌…この3条件が揃っている地は全国を探してもなかなかありません。
現在では15haの土地を利用し、自社オリジナルブランドの他、多くのブランドローズを生産し、その数は年間600品種以上、約60万本に上ります。全て自社でタネから生産した台木に接ぎ木をした良質の国産苗です。当バラ園のポリシーは「根っこまでが商品」であること。これからも長年培った技術と、たゆまぬ努力でお客様、販売店様、ブランドパートナーに信頼いただけるバラ苗を生産し続けます。

(有)河本バラ園 代表取締役社長
河本 茂樹

台木づくり

① 12 月…… タネまき/② 5 月……… 良い台木を選抜、畑へ植え付け/③ 6~8 月… 台木の管理

良いバラのためには台木が命

台木づくりバラ苗のほとんどは、増やしたい品種の芽や穂木を台木に接いだ「接ぎ木苗」です。河本バラ園では、梅雨時から夏にかけての高温多湿の時期に耐性が強い“ロサ・ムルティフローラ”を台木として使用し、そのクオリティには強いこだわりがあります。根がしっかり育たないと、地上部も健康には育ちません。これはバラだけでなく、すべての植物に言えること。だからこそ丈夫な台木づくりは、バラ苗づくりの基本であり、台木には河本バラ園のこだわりが詰まっています。

良質な台木ができるまで

では、こだわりの台木はどのように作られるのでしょうか?河本バラ園では台木にするロサ・ムルティフローラをタネから育てています。秋に実を採種しタネを採り、12月頃にタネをまき、移植できる大きさに育ったら、一旦すべて掘り上げて良い苗・悪い苗を選別し良い苗だけを残します。かわいそうですがここで3~4割の苗が破棄されます。そして5月にこの質の良い幼苗を1本1本畑の畝に手植えします。もちろん、生育する土壌環境にも注意を払います。連作障害を避けるため、一度バラを育てた土壌は最低でも1年以上、稲作などで畑を殺菌しながら休ませ、畑の場所を移動しながらローテーションで育てます。そのため、台木・大苗を含め約15ヘクタールもの広大な土地を毎年管理しています。

接ぎ木

① 9~10 月…芽接ぎ/② 1~3 月…… 切り接ぎ(芽接ぎしなかった台木、芽接ぎで活着しなかった台木)

芽接ぎと切り継ぎ

畑に定植された台木用の苗は、6~8月の間、消毒や草引きなどを行いながら大切に管理されます。そして秋、いよいよ接ぎ木の作業がスタートします。接ぎ木とは増やしたい品種の芽または穂木を、台木の生長点に密着させて、形成層同士を融合させる作業。河本バラ園では、9月~10月頃に芽を台木に接ぐ「芽接ぎ」と、1~3月に穂木を台木に接ぐ「切り接ぎ」の2通りの接ぎ木方法をとっていますが、芽接ぎと切り接ぎの割合は7:3ほど。芽接ぎをメインに行なっています。
芽接ぎは台木が畑に植わっている状態で行う屋外での作業。畑に植わっている状態の台木1本1本に芽を接いでいくわけですが、これは台木から育てているからこそできる接ぎ木方法です。また、経験と技術がその後の活着率を左右するまさに職人技です。一方切り接ぎは休眠期に行う屋内での作業。秋に芽接ぎをしなかった台木を12月迄に掘り上げ、1~3月の間に専用の部屋で、台木を密着させてテープを巻き固定していきます。基本的には芽接ぎをメインにしていますが、切り接ぎも並行して行うことで、より安定したバラ苗の供給につなげています。

圃場への植え込み

生長に合わせて掘り上げたり、植え込んだり

畑の台木は芽接ぎをした株もしなかった株も、11~12月にすべて畑から掘り上げます。一部は切り接ぎ用の台木になり、芽接ぎで活着した株は温室の中に植え込みます。いきなり屋外の圃場(畑)ではなく、一旦温室の中で管理するのは、接ぎ木をしたばかりの株は、屋外の環境に耐えられない弱い状態だからです。ある程度しっかりした株に生長したら、春に「新苗」として出荷する株と、冬に出荷する「大苗」の株に分けます。大苗用の株は温室での管理の後、3~6月上旬に大苗用に作られた屋外の圃場に植え込みます。このように台木づくりの段階から出荷まで、生長に合わせて掘り上げと植え込みを何度も繰り返すのです。

夏場の管理 & 掘り上げと出荷(大苗)

絶え間ない夏の管理で、丈夫な株に!

圃場へ定植した大苗用の株を、病害虫が心配になる梅雨時の6月から10月頃まで、消毒やピンチ(摘芯)、草取りなどを行いながら管理します。花を咲かせることなく、芽が出たらすぐに摘み取るピンチは、丈夫な根を育てるためには欠かせない作業。炎天下の中、株1本1本をピンチして行くのですが、圃場の広さは5ヘクタール以上。ようやく一巡する頃には、最初の株の芽が出てきてしまい、まるでイタチごっこのような作業です。
こうして夏の間、万全の管理のもと育てた株を、バラが休眠期に入る11月頃から掘り上げ、大苗として出荷します。出荷する大苗の基準は男性の指の太さ程の枝が株元から3本は出ていること。生育には問題なくても、その基準を満たさない株は出荷されません。

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